ラーゼフォン レビュー 「難解だけど引き込まれる」

 ※ネタバレ注意

 

あの「ムー大陸」が復活して東京を襲ってくるという胸熱な展開から始まるストーリー。

 

目次

 

放映時期

 

2002年冬(2クール)

 

見始めたきっかけ

 

かつての友人兼無類のオタクから「君にはラーゼフォンがオススメだ」と、10年以上前に言われ今更ながら視聴。

 

推しキャラ

 

弐神譲二:新聞記者を名乗っているが、やたらと国防部や財団の裏事情に詳しい。途中までは何が目的なのかさっぱり分からず、独特の飄々とした雰囲気もあって非常に気になる存在だった。連合の犬に成り果てていた19話では心底がっかりしたが、実は連合の偉い人と分かって驚かせてくれた。遙にやたらと秘密を漏らしたり、バーベムを射殺したり、仕事はきっちりやる男。ふざけているようで、その真意は全く読めず、どこからともなく現れる。そういう弐神さんが大好きだ。

 

自身を「猟犬」と評している点や風貌が似ている点から、PSYCHO-PASSの征陸智己(まさおかのとっつぁん)のモデルだと推測される。

 

レビュー&採点

 

・作画(キャラデザインも含む) 15点

・音楽(BGM、op、ed、挿入歌、se) 25点

・ストーリー(話数の配分等の構成、話の面白さ、脚本、展開) 30点

・人物(登場人物にどれくらい魅力があるか) 20点

・独自性(世界観や提示される概念など、何らかのオリジナリティがあるか) 30点

・メッセージ性(制作陣は作品を通して何を伝えたかったのか) 20点

 

作画

 

12点/15点

 

全体的にレベルは高かった。特に、綾人が下宿してた家や駄菓子屋は懐かしい日本を彷彿とさせていて良かった。

 

音楽

 

25点/25点

 

「調律」や「奏者」といった音楽用語が物語上重要であるためか、音楽のレベルは日本のアニメ史上でも一二を争うほど高い。特に、何気ない日常で流れる「their daily lives」は至高である。まさにお洒落な青春を感じさせる。

 

ストーリー

 

28点/30点

 

 

難解で哲学的な話が延々と続くかと思いきや、平穏な日常や恋愛にも大きく尺が振られていた。1話でいきなりムー大陸が東京を襲撃して、綾人が地下鉄の駅に逃げたのは引き込まれる展開だった。ニライカナイと東京ジュピターで時間の流れが違ったり、ムーの狙いが見えなかったり、弐神さんの意図が読めなかったり、久遠が謎のセリフ(例:「オリン」)を連発したりと、ミステリアスかつ神秘的で引き込まれるストーリーだった。この作品のテーマは「綾人の成長と親離れ」だと思うが、非常に丁寧に描かれていたと思う。

 

人物

 

16点/20点

 

人物というか、ドーレム(人造人間)多すぎ。バーベムや一色、ヘレナなど嫌味ったらしい小物が幅を利かせているのはアレだが、面白い人物もいた。功刀は最初嫌な奴だと思ったが、最後まで見てみると実に人間臭くて熱い人間だった。弐神の雰囲気や存在感こそ、本作品をエヴァと一線を画す最大の要因だと思っている。

 

独自性

 

30点/30点

 

神話をモチーフにした点、平凡な少年が突然最新兵器のパイロットになってしまう点、親との確執や反抗、キリスト教の影響など新世紀エヴァンゲリオンを模倣しているのは明らかである。しかし、本作品は音楽をモチーフとした独特な世界観を作り上げている点でエヴァとは一線を画している。誰の味方をしているかや行動原理が不明な弐神さんの存在感も、本作品の神秘性を高めている。また、作中で流れるピアノ曲はどれも素晴らしく、本作品を唯一無二たらしめている。

 

メッセージ性

 

15点/20点

 

終盤の戦闘シーンや、数々の謎が解明されていく様には圧倒された。制作陣の気合いは感じた。綾人と遙のラブストーリーを軸に、綾人の成長や親の克服、異種族の共存、神話、人間関係の確執など多様なテーマを扱ってもいた。ただ、扱うテーマが多様すぎたり、設定が分かり難かったりしたため、綾人と遙のラブストーリーという主題がぼやけてしまった印象。

 

総評

 

90点。ムー大陸襲来、久遠や綾人の腹の文様、異世界に繋がる祠、ニライカナイと東京ジュピターでの時間の流れる速さの違い、不明瞭なムーの狙い、弐神さんの謎めいた言動、久遠の謎のセリフ(例:「オリン」)、インテリジェンスなピアノ曲の数々…。ミステリアスで神秘的で引き込まれる要素が溢れていた。ストーリーが面白いのはもちろん、神秘的な要素の数々は考察厨兼オカルト好きの俺を激しく興奮させてくれた。俺が今まで見てきたアニメトップ10には確実に入ってくる作品。

 

神名綾人が親を乗り越え、成長する過程まとめ

 

2話で綾人とラーゼフォンが一体化し綾人が目覚めた。ラーゼフォンは、後の描写から綾人の深層心理そのものと思われる。ゆえに、綾人が本当の自分に目覚めたと言える。

 

3話で綾人は母である麻弥のロボを撃破している。この描写から、本作品のテーマが「綾人の成長と親離れ」であると推測できる。

 

4話で綾人はムーリアンと呼ばれ、監禁された。綾人に訪れた試練である。しかし、ラーゼフォンは勝手に動き、D51を沈めてくれた。綾人の願望を反映する存在である美島が初めて登場した。

 

5話では、綾人が下宿先で一緒に暮らすことになる恵や遙、六道翔吾と打ち解ける過程が描かれた。また、綾人が心を開いたらラーゼフォンの石化も直ると判明した。綾人とラーゼフォンは一心同体なのだ。

 

6話では、キムが登場した。「2300万人のうち400万人が死亡?」と興奮していた綾人だが、キムがムーのオーストラリア襲撃で両親を亡くしていると聞いて、急にラーゼフォン搭乗を決めた。ラーゼフォンに自発的に搭乗しており、綾人は自分に与えられた使命を受け入れた。まさしく、大人の階段の大きなワンステップを踏み出したのだ。

  

11話では、しばらくぶりに綾人が苦戦した。三島の助けを借りながらも、今まではD1との戦いに勝ってはいた。今回は試錬回。幻の世界に飛ばされた綾人は、喫茶店で遥に説得されていた。痛みも苦しみもない、こちらの世界の方がいい、と。綾人は流されかけた。しかし、最後は美島に「現実は、厳しいけど、覚悟はある?」と聞かれ、綾人は頷いた。甘い誘惑を断ち切り、厳しい現実を受け入れた綾人。精神的に強くなっている。ラーゼフォンに復帰した綾人は、D1を倒した。

 

12話では、 D1相手に綾人は自力で勝利した。美島抜きで勝てるほど、綾人は成長したのだ。

 

13話では、綾人が如月博士に抱かれる遙を見て疎外感を覚える様が描かれた。遙のラブシーンを見るまでは遙を真似して納豆に砂糖をかけていたのに、見てからは遙のようにご飯にマヨネーズを掛けたりはしなかった。綾人が失恋?のショックで拗ねる様子を面白く演出しているが、同時に綾人の幼児性を表してもいる。

 

綾人はなぜか「かあさん」と叫び、新兵器である弓矢でD1を撃破した。困った時に母を呼ぶ点も含めて、綾人の幼児性が強調された回だった。

  

14話で、綾人は仮死状態でもないのに美島と会った。綾人が自分の欲望の化身である美島と会ったのは、現実逃避を象徴しているのか。ラーゼフォンなしでD1に勝たれた綾人は、自分の存在価値のなさに愕然とした。本格的な成長の母である、挫折が訪れたのだ。

 

 

16話で、長官と指揮官から自分がムーリアンだと知らされた綾人。ショックを受け、故郷東京への帰還を決意。精神的に成長はしているが、自分の宿命までは受け入れられなかったか。遥が綾人を綾人として受け入れると発言したのは、綾人の心の支えになっただろう。

 

17話 。綾人は母を求めていた。そこへ美島が現れ「ここにいる。」と言った。綾人の欲望の化身である美島のセリフからは、綾人にとっての母の不在が伺える。親なき綾人は愛を求め、愛によって成長するのか。

 

18話。ラーゼフォンが突然暴れ出したのは、反抗期を思わせる。

麻弥が呼び出したファルセットに、ラーゼフォンは勝った。ちなみに、ファルセットとは裏声の一種で高い音を出す技法であり、本作品では少年期の象徴でもある。つまり、綾人が少年期を脱して大人になったと暗示されている。

 麻弥に「できれば私のお腹で産みたかった」と言われ、綾人はまたしてもショックを受けた。親に絶望し浩子と一緒に行動するあたり、綾人の自立をうかがわせる。

 一方、綾人はラーゼフォンと一体化しており、母体回帰をイメージさせた。

 

19話では、浩子との共同生活及び浩子との死別が描かれた。一旦は自立した綾人だが、ニライカナイに戻されたあたり大人に成りきれていないと分かる。

 

21話の最後、綾人は鳥飼守と対峙していた。 鳥飼守。鳥を飼い、守る。自由を抑圧するパターナリズムを象徴する名前だ。 その鳥飼から恵を守り切れなかったのは、綾人が親を超えるのはまだ先だという証明にもなっている。

 

 

22話。綾人は自分の絵をナイフで切りつけ、ラーゼフォンは消滅した。自分の作品の否定は自己否定につながる。

 

23話。美島は「ムーはラーゼフォンの奏者としてオリンを使わし、より良い世界へ向けて世界を調律させようとした」旨、綾人に言った。綾人が自分の真の使命に目覚めるきっかけになっている。

 

24話。遺伝子上の母である久遠を守るため、綾人は肉体を捨て意思と意識だけの存在となった。母への全面的な臣従に見える。

 

25話。綾人は完全に目覚め、真聖ラーゼフォンとなった。麻弥は「指揮者としての役目は終わった」とつぶやき、D1との戦闘=綾人の成長過程は終了した。育ての親は超えられたのだ。

綾人は神の心臓「ヨロテオトル」を得て、イシュトリと合体、神となった。

 

26話。綾人のラーゼフォンと久遠のラーゼフォンが戦った末、世界は光に包まれ、すべては元に戻った。親との葛藤の末、親と和解し、綾人は大人になったのだ。その後、遥と綾人は結婚した。赤ちゃんは久遠そっくりだった。ついに遺伝子上の親を越えたのだ。

 

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